サムライソウル/一日一歌
2011年4月23日(土)、大阪・スタンダードブックストアで、トータス松本の自叙伝「部屋の隅っこには恋のかけら」の発売記念トーク&サイン会が行われました。当初は発売当日に行われるはずだったイベントですが、震災の影響で1ヶ月遅れでの開催となりました。トークの内容は本書にまつわる外伝的なこぼれ話から、これからのトータス松本の歌への思いまでじっくりと話を聞くことが出来ました。その内容の一部を下記にアップさせていただきます。
※一部、話を要約・意訳している箇所があります。
初の大阪は、「大阪に行く」ことだけが目的で滞在時間メッチャ短い
今回は震災の影響で、トークライブ+サイン会が延期になってしまい、楽しみに待ってくださっていたお客さんにはご迷惑をおかけし、すみませんでした。
トータス いや、本当にお待たせして申し訳なかったです。でも、こうやって実現出来て嬉しいです。
すでに本を読んでくださっている方が多いと思うのですが、中でも今日は特に大阪時代の話をお聞きしたいなと思っています。トータスさんが一番最初に大阪に来たのはいつだったんですか?
トータス 高校生のときに、この本の中にも出てくる善一っていう友達と2人で来たことがあった。でも、すごい時間がかかるんよ。片道半日くらいかかる感じかな。
一同 えぇー!
トータス ホンマじゃっ(笑)! まず、オレの兵庫県の実家を出て、家から電車に乗るわけやけど、1時間に1本くらいしか電車がない。なんとかしてそれに乗って、加古川線っていうのに乗り換えて、少しずつ姫路のほうに出ていくんやけど、急行とか特急なんてないから、ずーっと鈍行。だからもう、朝イチで出ても、いよいよ西宮に着く頃には「腹減ったな~」みたいなことになってる(笑)。それで大阪になんとか着くんやけど、そこでハッと気づくんよ。大阪に来てはみたけど……目的がない(笑)。
一同 爆笑
トータス 「大阪に行く」ことだけが目的やから(笑)。「どこ行こうか」って言っても、ナンも知らんから、梅田の辺りをとりあえずウロウロして。でもさ、あの辺は高校生が喜ぶような店なんてないからね。やっぱり心斎橋とかに来ないと、ワーワーみたいなことにはならない。しかもさ、片道でそれだけ時間かかってもうてるから、気づくともう帰る時間になってる(笑)。
滞在時間がメチャメチャ短い(笑)。
トータス そう。しゃあないから梅田だけウロウロして、そのまま目的なくまた兵庫県の実家まで帰ってくるという(笑)。それが最初の大阪やね。
じゃあ、本の中にも出てくる、初のRCサクセションのコンサートは2回目の大阪ということですか?
トータス そう。本の中にも出てくるけど、小森っていう友達の親戚がRCのコンサートのチケットを取ってくれてさ、大阪までクルマで連れて来てくれたのはいいんやけど、あとはノーケアなんよ。コンサートに感動して見終わってさ。表に出たら、夜9時とか10時とかなんよ。帰られへんやん、それ。
小森さんの親戚の人も投げっぱなしという(笑)。
トータス そう。だから、なんちゅう無計画という(笑)。結局、新大阪のあたりまで行ったりしたけど、結局その日は家に帰られなかった。RCのコンサート自体はすごい良かったんやけど、感動も薄れてくるくらい、だんだん怖くなって来て。「このままずーっと帰られなかったらどうしよう」みたいなね。
一同 爆笑
トータス それくらい田舎の人間なんよ、オレは(笑)。
部屋の隅っこには恋のかけら・外伝
その後に専門学校に入学するために、改めて大阪で暮らすようになったんですね。
トータス そう。でも、大阪も随分変わった気はする。さっきも「アメリカ村、ホンマに人が少なくなってる」って話をしてたところなんやけど、実はその後、僕が18歳のときに大阪に出てきた頃もアメリカ村には人があんまりいなくて、ちょっとマニアックな街やったんよ。古着屋さんがあって、民族衣装的なものを売ってるお店があって。嗅いだことのないお香のなんとも言えないいい匂いがして(笑)。オレなんか田舎の人間やからさ、恐る恐るそういう店にそーっと入っていくわけやけど、いきなりタメ口の店員が来たりして。「良かったら着てってー」「あ、はい。すみません」みたいな感じやったと思うわ(笑)。最初はそんなんやったけど、大阪で暮らしているうちにアメリカ村がすごいことになって来てね。もう地方の高校生の修学旅行コースになったりしてたから。たぶん、あれがピークやったと思う。今は堀江とか船場が賑わってるらしいけど、そんなんオレ知らんもん(笑)。おそらく東京やったら、中目黒とかそんなんやと思うけどね。
当時はまだ泥臭い大阪だった。
トータス そうやね。ただ、とはいえ、その頃と今の大阪の違いを、そこまでオレもハッキリわかってないかもね。言うたって、オレが大阪で最初に住んだのは三国やから。三国はすごかったねー。三国は今でもそんなに変わってないと思う。
その三国が本の中にも出てくる「さつき荘」?
トータス そうそう。だから、「部屋の隅っこには恋のかけら・外伝」っていう本を出すとしたら、もっとディープな話になってくる(笑)。「さつき荘」の玄関とトイレは共同でさ、俺は6号室だったんやけど、玄関を入ると、病院みたいにビューンと廊下が伸びててさ。その真ん中に、どういうわけかゲロがビヤーっと一面に広がってたり。ゲロが広がってるから、トイレ行かれへん。誰が、どの時間にそういうことをしたのかと(笑)。
「さつき荘」に、普段は大人しいのに酒を飲むとグワーっと暴れ出す人が住んでたんですよね?
トータス そう。オレの部屋の真上の横の部屋に住んでた人がおって。その人の部屋、オレが暮らし始めた頃、すでに窓ガラスがなかった。
一同 爆笑
トータス 最初、意味がわからへん。あるときは段ボールで養生してあったり、あるときはブルーシートで養生してるんやけど、養生はかまへん。なんで窓ガラスを取り付けへんのやろうか、と(笑)。だけど、暮らし始めて3日目くらいにわかったね。夜寝てたらさ、「ブッ殺すぞ、ウリャーッ」みたいな怒鳴り声が上から聞こえてくるわけ。
ムチャムチャ怖い(笑)。
トータス 怖いよ。なんせあまりにも怖いからさ、管理人のオバサンに「僕、あの人に何か悪いことしましたでしょうか」「僕に怒ってるんでしょうか」って聞いたんやけど、「関係ない関係ない。あの人、一人で勝手に怒ってるだけやから」って。それ聞いても、オレとしてはまだ怖いわけよ。「さつき荘」ですれ違って「こんにちは」ってビビりながら挨拶しても、目を合わさずに大人しく去っていくという。確かにオレに怒ってるわけではなさそうやったけど、ある日、バイトが終わってバイクで「さつき荘」に戻って来たら、入り口のところで、警察官2人が素っ裸の男を抱えてるんよ。もうホンマに素っ裸で。それで顔を見たら、その人やねん。警察官が「この人知ってるか?」って言うから「知ってますよ。僕の部屋の上の人です」って言ったら、その人がブチギレてさ。「いらんこと言うなゴラァ」と。それから警察官が素っ裸の人を連行していくわけやけど、オレとしたらまた怖いわけよ。「オレの部屋にあの人が復讐しに来たらどうしよう」みたいな。
一同 爆笑
トータス なんやけど、明くる日にその人を見たらさ、なんてことのない普段の様子に戻ってるわけ。だからね、さっき言ったゲロバシャーンもオレは今でも犯人はそいつやと思ってる。
一同 爆笑
歌は間違いなく今までの自分の人生を作ってきたし、これからもそれ以外は考えられない
本のタイトルにもなった「部屋の隅っこには恋のかけら」という歌詞が出てくる曲、『バラード1』も、その「さつき荘」で作ったんですよね。トータスさんが一番最初に作った曲という。
トータス そう。その「さつき荘」には18歳から22歳くらいまで住んでて、ウルフルズを始めてから1年以上はそこで暮らしてたから。だから、ホンマに最初の頃の曲はその部屋で書いてる。封印してますけどね(笑)。
でも、その頃の思い出は鮮明に覚えているんじゃないですか?
トータス そうやね。オレの人生ではもう大阪にいた時間よりも、東京に来てからのほうが全然長いねんけど、大阪の思い出のほうが何故か覚えてる。やっぱり、大阪っていうのは自分の一時代の場所やから、すごい細かいところまで覚えているよね。その記憶が、あるときは邪魔やったり、イヤな部分もあるんやけど。ただね、オレ、昔を振り返ったりすることがあんまりせぇへん人間なんやけど、唯一「帰りたいな~」と思う時代を挙げるとすれば、やっぱり大阪の「カンテ」時代やと思う。「『カンテ』におった頃の人生をもう一度やってみろ」と言われたら、やりたいね。
一番夢に向かっていた時代?
トータス そう。夢に近づこうとすることと、バイトでの暮らしが全く離れたものじゃなかった。どっちかが、ものすごいしんどかったら、どっちかが破綻してたかもしれへんけど。「カンテ」でこう仕込みしたり、お茶を作ったり、店の子らにまかないを作って食べさせてあげたりすることは、自分の中で、歌を歌うときのサービス精神と繋がってたというか、全然しんどくなかったからね。逆に、もっと早いうちに東京に出て来てて、そういう経験が出来てたかなと思ったら、全然イメージ出来ひんもんね。東京に、そこまで自分にピッタリの場所があったんやろかって考えたら、たぶんないと思うわ。
本の中では、「その頃の自分に戻される感じがする」とも語っていますけど。
トータス うん。高校生のときは、他にやりたいことを探そうとせずに、決め付けで、「音楽!」みたいに思ってたんやけど、逆に今も、そこは探そうとしてないからね。歌は間違いなく今までの自分の人生を作ってきたし、これからもそれ以外は考えられないっていう、その感じは似てる。30代の頃は、それでも悪あがきして「ちょっと違うことを探してる」みたいなところがあったけど、40代になったら途端に雑念というのがなくなって。歌を歌うということだけがやりたいし、それだけで人を喜ばせて、自分も嬉しいみたいな。自分の中の一番コアにある、サービス精神、サービスするタチみたいなところへ、戻って行った気はするんやけどね。今、東日本は震災で大変なことになってるけど、ホンマに綺麗ごとではなくてオレにやれることがあったら、なんでもやりたいと思うんよ。ただ、オレにやれること、ちゃんとみんなに届けられる確信が持てることって、究極を言えば歌しかないんよね。だから、もう精一杯歌い続けていこう、と思ってさ。今はそういう気持ちやね。
どんなに怖いことがあっても歌を歌っているときだけは、不安は全く感じない
5月26日から始まる「ア・カペラ!!」ツアーは、より「歌」ということに、こだわったライブになりそうですか?
トータス そう。バックのコーラス隊とオレだけ。だから、バンドとは違う面白さがあると思う。ソロになってから試行錯誤しながらやって来たけど、今年からはソロでしか出来ひんことをやっていこうと思ってる。
あえてバンド編成ではない理由は?
トータス バンドはやっぱり複雑っていうかね、自分の中でこうバンドと言えば、「ウルフルズ」っていうデッカいものがあってさ。それは自分にとって、大きな存在であり、壁であり、そのバンドの主要人物やったから。「じゃあ、トータス松本バンドを作ってやっていこう」という気持ちにはなかなかなれへんわけよ。今回、震災のことがあって、色んなところで「ウルフルズをもう一回やってくれ」「『ガッツだぜ!!』を歌ってくれ」みたいなことを言ってくれる人もいてさ、有り難い反面、複雑な気持ちもあってね。オレは「六本木ヒルズ」でやったウルフルズの活動休止ライブのときに「世間がまたウルフルズを必要としてくれることがあったら、そのときは、また4人で集まれるかもしれへん」って言ったけど、それが今なのかどうか……。それは自分の中では、冷静に噛み砕いて、飲み込んだんやけど、そんなときに黒田(ジョン・B)が電話して来てん。
一同 えぇー!
トータス 「もしもし黒田です」「どうしたんや?」「どうしましょう」「『どうしましょう』ってナンや?」「ウルフルズ……」って(笑)。だから、「もう一度ウルフルズをやりたい」っていう気持ちは、黒田の中にはすごいあるんよね、きっと。
でも、本の後半でも出て来ますけど、本当はメンバーそれぞれ「ウルフルズを続けたい」という気持ちはあったんじゃないですか。
トータス そう。ただ、やりたい気持ちが全員にあっても、「じゃあ、どうするか」という気持ちや思いは、個人個人違うと思うんよね。そこがまた複雑なところなんやけど、ホンマに4人が揺るぎなく「もう一度ウルフルズをやったほうが良い」と一致するまでは出来ひんよね、やっぱり。みんなから求めてくれる気持ちは有り難いけど、そこはホンマに難しい。だから、話が戻るけど、今オレに出来ることは、オレ自身がまず歌うことくらいしかないわけ。オレ、もともと屁理屈言いでさ、喋り出すと、いつまででも屁理屈を言うんやけど、歌ってるときだけは屁理屈言わんで済むしさ(笑)。あと、不思議なもので、どんなに怖いことがあっても歌を歌っているときだけは、不安は全く感じない。自分が楽しくて、その上みんなも喜んでくれるんやったら、こんなに嬉しいことはないよね。自分が「シンプルなことをやりたい。自分にしか出来ひんことやりたい」って、なんとなく思ってたときに、ホンマにやらざる得ないような状況が来て。不思議やなって思うけど、とにかく今度の「ア・カペラ!!」ツアーは、そんな思いがあって。楽しみにしてて欲しいです。
聞き手●松田義人(deco) 写真●福光衛(タイスケ)
8月に地元・兵庫県で行われる「歌う!トータス松本烈伝」の特設サイトにて
現在、昨年行われた「歌う!トータス松本伝説」ダイジェスト映像が公開中!!
ええねん/一日一歌
YouTubeにて先に公開しておりましたジョン・B&ザ・ドーナッツ!『スマイル feat.トータス松本』が本日よりiTunes Storeにおいて「Support Song〜アーティストによる応援ソング」としてダウンロード配布開始しました。(5月31日まで)
http://itunes.apple.com/jp/album/id433825867 [PCのみ]
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時間をおいて再度アクセスして頂きますようお願い致します。
<<Support Song〜アーティストによる応援ソング>>
東日本大震災の被災地と日本全体を励ますために、アーティストが書き下ろした作品が毎週1曲ずつ無料公開される企画。
上記URLもしくは、iTunes Store TOPページ「応援ソング」からご利用下さい。
一人でも多くの人の心に、スマイルが響きますように。